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さてさて。急な話ではあるが、この国では年に数回、男の子が胸を踊らすイベントがある。
しかし、そのほとんどがクリスマスだのなんだの俗に言う「リア充」限定イベントだったりするわけだ。
しかもそのイベントは、そもそもガチャを引く権利すら届かない場合が多い。スタートラインがすでにプレミアチケットなのだ。
そんなロンリーウルフが虚しく叫ぶイベントの中でも、全男子が平等にドキドキわくわくなイベントがある。
バ レ ン タ イ ン
そう、バレンタインである。女の子がチョコやクッキーなんかをこそこそいそいそ用意して、男の子は自分の番はまだかまだかまだなのかと鼻の穴をおっぴろげてふんがふんが待つ例のあのイベントである。彼女がいようがいまいが関係ない。所謂「ワンチャンあるんじゃね!?」というやつである。私は、今ももちろん希望を捨てずに、毎年甘いものを待ち焦がれているわけだが、今回は今よりもさらにさらに血眼になって待ち侘びた頃のお話。
時は中学一年生。色恋なんかあまり興味のなかった小学生の頃から、じわりじわりと大人に近付く年頃である。
今でもそうかもしれないが、一般的に小〜中学生の年頃で言えば、女の子のほうが大人だ。恋愛相談や彼氏がほしいだのオシャレがどうだの。考えている美意識は大人とあまり変わらないかもしれない。
しかし、男の子は違う。と言うか私は違った。中学一年生の頃なんて、レゴブロックと好物の唐揚げのことくらいしか考えてなかったのではないかと思う。それでも、漠然とした異性への興味はむくむくと湧いてくるもの。そう、それが思春期なのだ。
中学校に入学してほぼ丸一年。ピュアボーイだった私も、人並みの精神的成長を経てそれなりにそわそわする季節がやってくる。2月である。
この頃の私はもちろん超ド級のどフリー。彼女などいるはずのない優良空物件である。めっちゃ空き家である。そりゃあドキドキもする。するったらする。いつもは気にしない前髪を整えちゃったり、重そうな荷物を運ぶクラスの女の子に「あ、持とうか?」なんてさり気なく伝えたり。要は「短期間で高感度を上げよう月間」に突入するわけである。なんとも浅はか。いや、健気な一年坊である。
バレンタイン当日。母親には「別に今日がなんの日かなんてまったく気にならないもんねオーラ」を放ちながらいつものように通学路へ向かう。シャツを念入りにズボンに押し込み、学ランはもちろん第一ボタンまでしっかり止めて、なんならホックもキッチリ閉める。うん、いつも通り。いつも通りである。
今想像してみると、背丈より大きめの学ランを着たちんちくりん一年坊がきっちりピッチリ歩いている様はなんだか七五三みたいだなぁと思うけれど、本人は大真面目である。気持ちはさながら、初陣に向かう新兵だ。
学校に到着してすることといえば、まず初めに下駄箱チェックである。これはもう基本中の基本。なんなら入念にチェックするやつが多くて少し混雑するくらいだ。私が通っていた学校の下駄箱は、開閉式ではなかったので、ひと目見たらすぐわかるにも関わらず、隅から隅までチェックする男子多数である。
しかし、どんなに見ても、ないものはない。
第一チェックポイントは敗北。しかしまだ次がある。本命は、教室の机の中だ。そこに全てを賭けるしかない。
勇み足で教室に向かい、ふんがふんがと鼻息荒く冷静を装いながら席に着く。そしてずざっと机の中に手を入れる。
…ない。完全敗北。敗退決定である。
傍から見れば異様に興奮した中学生がただいつものように登校しただけであるが、脳内は燃え尽きた矢吹ジョー。真っ白な灰になる寸前であった。
しかし、神は私を見捨てなかった。
なんと、昼休みから戻ると、机の中に入っていたのである。チョコレートが。
明らかに手作りとわかる、イチゴをチョココーティングしたものが、可愛らしい包みでラッピングされている。私にはそれが神からの贈り物、または将軍様に頂いた褒美のように見えて「このまま神棚に末代まで飾り奉ってやろうか…」と真剣に悩むほどであった。
しばらくの間、恍惚とした表情でラッピングを眺めていた私は、ふいに我に返った。大事なことを見落としている。幸福の絶頂が訪れた後は、必ず落とし穴が待っているものだ。
油断するな…なにかを見落としている…
「あれ?アキラなに持ってるん?」
秒速64メートルで振り返った私の後ろには、当時のクラスメイトのOくんがいた。
「アキラ、バレンタインもらってるやん!」
Oくんは間髪入れずにクラス中に聞こえる声で言った。
忘れてはいけない落とし穴とは、このことである。中学生の多感なお年頃男子にとっては、同級生の色恋沙汰など恰好のエサ。吊し上げの的でしかない。クラスメイトは、池に投げ込まれた餌めがけて我先にと群がる鯉のように盛り上がった。
正直、悪い気はしない。なんてったって私は、チョコレートをもらったのである。差し出し人はまだわからないが、チョコレートは確かに私の手の中にある。誰が何と言おうと勝ち組である。あるったらあるのである。
しかし、なんともこう居心地が悪い。わかりやすく言うと、恥ずかしい。期待していた自分に勘付かれるのも恥ずかしいし、舞い上がっていると思われるのも恥ずかしい。脳内が台風のように渦巻く中、私は言葉を絞り出した。
「別に嬉しくないし!誰が作ったのかもわからないものを食べる気になんかならん!!気持ち悪い!」
先に言っておくと、まったくもってそんなことは思っていない。しかし、恥ずかし死しそうなほどフル回転させた脳内は、この言葉を弾き出したのである。
結局、散々悪態をついたのちにカバンに入れて持ち帰ったわけだが、今思えばそれはそれはひどい奴である。作った本人も教室にいただろうに。極悪人だ。しかし、当時の私にはそれが精一杯の反応だった。
最後まで誰がくれたかわからなかったチョコレートは、自宅に持ち帰り美味しく頂いたわけだが、なんとも残念なバレンタインである。
チョコレートも思い出も、
ほろ苦い味がするなぁ。
お後がよろしいようで。
べんべん。
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文:アキラ(大阪を拠点に活動中のシンガーソングライター。最新情報は下記SNSをチェック!)
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