「空はまだ遠くにある」【SSWアキラのアキラめない日々:15】|Q-WEST(クウェスト)・関西カルチャー探求WEBメディア

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「空はまだ遠くにある」【SSWアキラのアキラめない日々:15】

2023. 06. 16 Fri

どうも皆様おはようございます。
またはこんにちは、こんばんは。
シンガーソングライターのアキラです。

アキラ情報。詳しくはTwitterをチェック。
▼アキラTwitterアカウント
https://twitter.com/akira_utauhito

私は今、シンガーソングライターという肩書で活動している。
しかしまぁ、どんな形でもどんなキッカケでも、興味を持ってもらうって大事だと思うのです。

そこで、

実は私、昔から文章書くの好きでして…
昔は短編小説を書いたりもしてたわけですよ。
お恥ずかしい話ですが。

ちょっと、久々に引っ張り出してきたので供養してもらえませんかね?
加筆修正をしてますので、記憶にある方もよかったら読んで観て頂けたら…

それでは、どうぞ。

「空はまだ遠くにある」

「自分の人生について悩まない人がいるとしたら、その人はきっと自分自身の成長に興味のない人間だ。現状を打破することも自身の欠落を改善することにも目を向けず、ありのままなんていう舌触りのいい言葉で煙に巻く。だから悩まないし振り返らない。個人の思考や性格にもよるのだろうが、私はそう思う。だから、悩み立ち止まり振り返り、辺りを見渡してからまた歩き出す。前に進む力強さにこそ、そんな時間が必要な時もある。
しかし、振り返らないことは強味にもなる。振り返らないから立ち止まらない。一見無鉄砲に映るその振る舞いは、見ている人を冷や冷やさせる時もあるだろうが、唯一無二の輝きを持つ孤高の歩みにも見えるだろう。
物事は捉え方次第だ。例えば、初詣で大吉を引いたとする。「だから安泰で安心」と気を大きくする人もいれば「だからこそ気を抜かずに」と、勝って兜の尾を締める人もいる。二律背反あるからこそ、人生はおもしろい。対立する意見があり、真反対の人間がいるからこそ、まだ見ぬ世界で出会う人物像に想いを馳せ、胸を高鳴らせることができる。」

「舌触りの良い言葉並べて悦に入ってるのはてめぇだろうが」

小さな溜息とともに、思わず侮蔑の言葉が溢れる。
まだ人の少ない午前中の小さな喫茶店で、私は手に持った本を投げ捨てるように閉じた。

どこに行きたいわけでもなかった私が、ふらりと入った小さな喫茶店。入店からずいぶん居座った気がするが、周りを見渡してもさほど人はいない。四人掛けのはずのテーブル席に陣取っていても、まだまだ人目は気にならなかった。

私は、すっかり冷めてしまった二杯目のホットコーヒーを啜りながら店内の壁掛け時計に目を向ける。植物の蔦が絡まったデザインは、今で言うところの「映え」というやつなのだろう。しかし、古ぼけた小さなシャンデリアとレトロな革張りの椅子が並んだ店内では、背伸びをした小物を飾っているようで少し滑稽にも見える。時計は11時半を少しまわったところだった。

珍しく早起きしたものだから、まだお昼にもなっていない。もっとも、ふらふらとアルバイトをしたりしなかったりする私には、時間の感覚などあまり関係はないわけだが。

遥か昔に買ったままホコリを被った自己啓発本を引っ張り出してきたのだって、ただ持て余した時間を無駄にしていないように見せるための、誰に対するでもないアピールなだけである。

コーヒーカップをカチャリとテーブルに置く。体を預けた背もたれが、ギシリと音を立てた。古そうな店だから、経年劣化というやつだろう。

「同じだなぁ、俺もお前も」

古くなった椅子に自分を重ねる。私には、子どもの頃からの夢があった。今更なにとは言わないが、情熱があった。それを実現する自信もあった。成功を信じて止まなかった。自分は特別な存在で、特別な才能があるのだと、それを疑うことすらなかった。迷うことなく進路を決め、一直線に望む世界に突き進んだ。

しかし、しばらくしてその道に迷いを感じるようになった頃、「大人になる」ということがどういうことかを知った。

好きだったことがただ認められ褒められていたこどもの頃から、大人になるに連れて世界も視野もどんどんと広がった。

しかしそれとは反比例に、自分の中の自分の評価はみるみる小さくなっていった。上には上がいるなんてありふれた表現では収まらないような失望に、心の中が焼ける想いで抗った時もある。死なない限りは諦めないなんて、安いヒロイズムに酔いしれた事もあった。

そうやって憧れから目が覚めることを、人は「大人になる」というのだろう。

だとするならば、私はずいぶんとまぁ大人になってしまったようだ。背が伸びて天井の高さを知るように。遠い遠い憧れた景色は、今ではもう眺めるだけの絵画のようだ。

「あっついなぁしかし。えぇ、おい」

喫茶店のトビラのベルがガランガランと大きな音を立てると同時に、店内にがさつな大声が響く。入店の様子から察するに、どうやら常連客のご来店のようだ。マスターの気の抜けた挨拶から、雑談に花が咲く。私はなんとなく声の方に視線を預けた。

大きなリュックサックを背負った無精髭の男。引き締まった肉体と精悍な顔立ちには似つかわしくないほどに、顔も服もどこか薄汚れているように見える。Tシャツにジーンズの軽装なのに、靴だけは大きな登山用のシューズを履いていた。

「今回はどちらまで?」

注文もしていないのに、マスターが手際よくコーヒーを入れる。所謂「いつもの」というやつなのだろう。

「今回はタイの奥の方までな。今日の朝、日本に着いたんだ。野生の鹿が捕れたよ。さばくのに時間がかかっちゃってな、多少ハエがたかってたけどうまかったさ」

薄汚れた男が明るく答える。がさつに聞こえたが、よく通る良い声だ。背中から降ろしたリュックサックを手に、男は店内を見渡した。

「なんだ、先客がいるね。珍しい」

男は私の席の方を向いて言った。どうやらお決まりの席らしい。本来なら譲る理由などあろうはずもないが、目があってしまった手前バツが悪くなった私は、軽く会釈をして椅子を立った。

「あぁ、いいっていいって」

そう言いながら近付いてきた男は、私の斜め向かいの椅子に腰掛けた。もちろん、もともと四人がけのテーブルだから、広さは申し分ない。しかし、わざわざこんな客の少ない店内で知らない男と相席とは如何なものか。落ち着けるわけがない。

「あ、その本俺も読んだよ」

先程机の上に投げ捨てた本を見て、にこやかに男が言う。

「はぁ…」

私は吐息に近いような、曖昧な返事を返した。もともと人付き合いは得意な方ではない。ましてや初対面の人となんの前置きもなく二人きりで話すなど、もってのほかである。

「つまんなかったろ?なぁ。説教されてるみたいだったろ?」

マスターが、静かにコーヒーを机に置く。男はそれに右手をあげて応えた。

「まぁ…そう、ですね…」

男が砂糖とミルクを入れて、カチャカチャとカップの中を混ぜるのをぼんやり見ていた。真っ黒なカップの中身は、あっと言う間に淡い茶色になった。

「だよなぁ。物事は捉え方次第。伝わらねぇよなぁ」

カップを口に運び中身を啜る。それに合わせるように私もコーヒーを啜った。すっかり冷めてしまったコーヒーは、苦味だけを口に残した。

「でもな兄ちゃん、それはたぶん、あんたが立ち止まってる真っ最中だからだ」

手に持ったカップをそのままに、男はニヤリと笑った。ずいぶんと歳上に見えたはずなのに、笑った顔はイタズラを企む少年のようだ。

「内側にいる間は見えねぇんだ。自分自身のことなんざな。でもいつかきっと気付く時がくる。あぁ、立ち止まった時間はこのためにあったんだな、ってな」

男がカップを置いてタバコに火をつける。紫煙が目の前をくるりと舞った。

「自分の強さとか自分の価値だとか、目に見えないものはわからない。だから皆、他人の評価ばかりを求める。安心したいからな。他者を通じて、自分という存在を確かめようとする。そのために立ち止まって周りの様子を伺ったりする」

男は流暢に喋った。本当に、不思議と聞く気になるような、良い声をしている。

「それももちろん大事なんだけどさ、立ち止まってるだけじゃダメなのよ。石橋を叩いたなら、渡らなきゃ意味ないだろう?そうと決めた瞬間が来たなら、脇目も振らずに一目散に駆け抜けりゃあいい」

キラキラ輝く男の目は、私の中を見通すようだった。

「だから、どっちも大事なのよ。立ち止まる時も、進む時も。どちらかに偏ると気持ちも傾いちまう。でもまぁ、その瞬間瞬間に出会った人たちは、知った顔をして意見するんだろうなぁ。恐れず進めーとか。慎重に行けーとか。いやいや、こっちはまだ道半ばだってのに」

私は目の前に置いたコーヒーカップに目を向けた。しばらく放置されたカップは、混ざり切らなかったコーヒーが沈殿している。

「時間は待ってはくれねぇからさ、すがり付きたくもなるだろ?明日になんかならなきゃいいのにー、とかさ。そうやってる時間だって、進む時のことを考える時間なんだ。作戦会議中ってことだろ?なんにも無駄にならんだろ?ってなるとやっぱり、捉え方次第なんだなぁ」

壁掛け時計は、とうの昔にお昼を回っている。時間を忘れるとは、この事だろう。気付かなかった間に、ずいぶんと男の話に聞き入ってしまった。

「おっと、時間とって悪かったな。まぁよかったら、最後まで読んでやってくれよ。実はなぁ、その本俺が書いたんだよ。俺にとってはな、その本を書いてた時は立ち止まった時間なんだ。自分を整理する時間。本自体は全然売れなかったんだけどよ、おかげでまた歩き出せたんだ。どこまでも行ける。ならばどこへでも行こう、って」

男は席を立ち、さっさと会計を済ませて出ていった。

見ず知らずの男の話を、ここまで時間をかけて聞いたことなんか今まであっただろうか。まるで待ちわびた春一番のように、ほしかった言葉が風に乗って流れてきたようだった。

さっきまでの男は、自分自身の白昼夢だったのだろうか。そう思えるほどに、自分の内側に高鳴るものを感じている。これがどこに向かう高揚なのかはまだわからないが、歩き出さなければもったいないような、いても立ってもいられないような、そんな気持ちだ。

私も早々に会計を済ませ、店を出る。

あぁ、よかった。

空はまだ遠くにあった。

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アキラ

文:アキラ(大阪を拠点に活動中のシンガーソングライター。最新情報は下記SNSをチェック!)
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