ランジャタイがこわい【小豆のお笑い豆噺:9】|Q-WEST(クウェスト)・関西カルチャー探求WEBメディア

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ランジャタイがこわい【小豆のお笑い豆噺:9】

2022. 07. 15 Fri

先日、京都ロームシアターで行われたお笑いライブを観てきた。いわゆる“早坂営業”である(※人力舎の営業部長である早坂さんという方が取り仕切っている地方営業のこと)。
早坂営業のライブでは様々な事務所の芸人が出演している。この日は、グレープカンパニー所属のランジャタイもその中の一組にいた。
ランジャタイの漫才では息が出来なくなるんじゃないかと思うくらい笑った。しかし漫才が後半に進むにつれ、ふと「あれ、私なんで笑ってるんだ?」と何故だか急に恐怖感に襲われた。
これは比喩でもなければ「まんじゅう怖い」的な話でもなく、ただ単にそのままの意味でランジャタイが怖いと言っているだけの文章である。

2007年結成、アンダーグラウンドな人気を博しつつ、2020年M-1敗者復活の放送でお茶の間をざわつかせ、翌年2021年M-1では決勝出場を果たした伊藤 幸司と国崎 和也からなるコンビ、ランジャタイ。

ランジャタイのコンビ名の由来は、天下人だけが切り取ることを許された「香木・蘭奢待」で、「天下を獲りたい」という伊藤の願いからつけられたらしい(Wikipediaを見ました)。
この由来を見ると、野心を持ち合わせ真っ直ぐに芸人オブ芸人の道を踏み締め歩み進んでいるように思える。しかし不思議なことに“どうしてそうなった”と言いたくなるくらい斜めなフォームで欽ちゃん走りしているようにしか見えない二人だ。欽ちゃんは悪くないのだが、とにかくランジャタイはそう簡単に捕まえられる存在ではない。

漫才というものは、ネタという枠がある。持ち時間がある。ステージにおいて、芸人はそのパッケージにおさめられる。
ボケはいつか終わる。漫才の時間もいつか終わる。M-1でいうと4分間という括りがあるように。
ランジャタイ、特に国崎は、ひとたび漫才という箱から飛び出てしまうとそれが終わらないものとなる。
ボケのループ、成り立たない会話、変な嘘、終わらないお笑い。ファンにとって大好きな時間がずっと続くことは天国のような至福の時であろうが、裏を返せば永遠に抜け出せない地獄だ。よく沼に嵌ると言うが、ランジャタイの場合は滑落事故と紛うほど。

「ランジャタイのオールナイトニッポン」でこんな話をしていた。
とあるアイドルと同じイベントに出ることになったランジャタイ。マナーの宜しくないファンに反発心を覚えた国崎は、漫才の予定終了時間を大幅に伸ばしボケ続け、後に控えていた落語家の出演時間を削ることになってしまった。落語家は大パニック、大幅に伸ばしたランジャタイの舞台もそれほどウケていないという地獄絵図。それを淡々と、かつケタケタと笑いながら話す国崎。怖くない?
いやいや、マヂカルラブリーが『お笑い向上委員会』で、ランジャタイはスベっていることも全部わかってやってる、わかってやるメンタルが凄い、と言っていた。そうか、凄いことなんだな。いや、やっぱりなんかもうそれも逆に怖い。
また、このオールナイトニッポンでは、ブラックビスケッツの『Timing』を、メンバーである南原清隆が歌うパートを何度も流す時間があった。私はこの辺で記憶が飛んだ。これを深夜に聴いていたであろうランジャタイファンもついでに怖くなった。

国崎がガソリンスタンドでバイトをしていた時の話では、同僚のおじさんと2人だけで店をまわした際、ガソリン料金の設定を誤ってむちゃくちゃ安い値段で一日中販売してしまったという失敗が起こり、“仕事が出来ない2人”として全店に晒し上げられたという。
その挙げ句、おじさんと国崎は「1日8時間 旗を振るだけの仕事」しかさせてもらえなくなったらしい。これをまたケタケタと笑いながら話す国崎。いやこれは笑ってしまったが、もし同じ職場の人間だったらと想像したら迷惑千万である。怖い怖い。

佐久間宣行氏のYouTubeチャンネルである『NOBROCK TV』の「100回ボケてツッコむタイムレース」にランジャタイが出演している回では、収録中に国崎が勝手に家に帰るというボケをしていた。相方の伊藤すら置いて、佐久間を始め、たくさんの大人達を置き去りにした。その度胸がすごくて怖い。

それに比べ伊藤はどうだろう。
バイト時代の話では、長めの髪を制服の帽子にぎゅうぎゅうに詰め、パン屋さんで一生懸命働いていたらしい。なんて和むエピソードだろう。癒しすら感じる。健気な青年だなぁ。道端にそっと咲く花のようだ。しかし国崎と15年コンビを組み続けている。だめだ怖くなってきた。

ハリウッドザコシショウがその昔、劇場のスタッフに「センターマイクの位置を出来る限り上げてください」と頼んだ。言われるがままにギリギリまでマイクを上げつつ、不思議に思ったスタッフは「なんでこんな上げるんですか?」と聞いた。ザコシショウは「おもしれーからです」と一言だけ答えたという。
そうだ、ただそれだけでいいのか。
ランジャタイのランジャタイたる選択の全てもきっと、「おもしれーから」でしかないのかもしれない。

冒頭で触れたM-1での目に見える躍進、テレビや舞台等の活躍にてわかるように、着実に芸を磨き歩みを進めているのは確かだ。彼らの漫才が奇天烈だろうが、その挙動に恐怖を感じようが「なんか笑っちゃう」のなら、それはもう2人に「笑わされている」ことに他ならない。

ガソリンスタンドもパン屋の仕事もしなくていい。寧ろしないでほしい(怖いから)。
ランジャタイは、生涯「職業 お笑い芸人」しか出来ない2人組なのだろう。

イラスト+文:小豆
Twitter:@Kmame
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